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東京高等裁判所 昭和26年(う)2235号 判決

控訴人 被告人 鄭在伯 林圭

弁護人 渡辺治湟

検察官 小出文彦関与

主文

原判決中被告人等に関する部分を破棄する。

被告人両名を各懲役四月及び各罰金拾万円に処する。

この裁判確定の日から四年間右各懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金弍百円を壱日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人両名と原審相被告人金奉沂及び朴貞との連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人渡辺治湟提出の控訴趣意書と題する書面に記載のとおりであるからここにこれを引用しこれに対し次のように判断する。

第一点について

原判決認定の事実並びにその挙示する証拠によれば、被告人等は他二名と共に相被告人金奉沂等が判示貨物の密輸入をなすに際しその情を知りながら判示機帆船を川崎市扇町岸壁附近まで廻漕し同岸壁に碇泊中の中国船新亜洲号の舷側に横付けにして、同船から判示の貨物を右機帆船内に積み替えた上、これを同市桜橋附近に廻漕して陸揚をする目的で、右舷側を離れ数メートル行つた際発覚逮捕せられたものであることが認められる。このように密輸入の目的を以て、所定の輸入手続を践むことなく且つ所定の場所以外の地点で陸揚げするためその目的たる貨物を、既に国内岸壁に碇泊中の船舶から密かに陸揚用の機帆船に積載を終了したときは、たとえ未だ現実にその陸揚を完了していなくとも右は関税法(昭和二十五年四月法律第百十七号による改正前の条文)第七十六条にいわゆる「免許ヲ受ケスシテ貨物ノ輸入ヲ為シタルモノ」に該当するものと解するを相当とする。よつて論旨は理由がない

その余の論旨に対する判断は省略する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 荒川省三 判事 堀義次)

控訴趣意

第一、法律違反

原判決は、正犯金奉沂が油性ブロカイン等の貨物を外国船から機帆船へ積込んだ行為を、密輸入と断定し、本件被告人等が之を幇助したものと認定しているが、右のように単に機帆船に積込んだだけの行為は密輸入ではなく、密輸入をせんとしたものに他ならない。密輸入が既遂たるには陸揚げが必要であることは従来の定説である。従つて陸揚げ前の行為即ち本船から他の船へ積込むだけの行為は、密輸入の既遂ではなく、密輸入をせんとする行為に他ならないことは明かである。然るに原判決はこの単なる積込行為を以つて、密輸入の既遂と断定し被告人等の行為を之が幇助と認定していること前記の如くであつて、之は明かに法律の解釈を誤るものである。(起訴状もこの弁護人の解釈と同解に出でている。)

尤も関税法に於ては、密輸入の既遂と未遂とを区別せず、その何れも同一の犯罪と規定しているから、原判決が本件の犯罪事実即ち密輸入の未遂を、之が既遂と誤認したからといつて、被告人の利害に何の関係が無いとの観方も出来そうでもあるがこの観方は根本的に誤りである。何故ならば関税法上、密輸入の既遂と未遂とは、同一犯罪であり、従つてその適用法条は同一法文であつても、当該犯罪事実が既遂であるか未遂であるかは、刑の量定に至大な関係のある事実である。故に原判決の右の如き法律の誤解は当然に是正せられねばならないものである。

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